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■PHV37モデルで独立試験
当社エミッションズ・アナリティクスによる以前のコラム「ユーザー次第のPHVの排ガス削減効果」では、PHVの排出量および燃料消費量の変動と政策上の危険性を取り上げた。PHVの販売が急速に拡大する中、この問題の重要性はさらに増している。電化された未来への懸け橋として有効なこの技術が、次のエミッション危機となることを避けるにはどうすればよいのか。また、予測不能の消費者行動と、誤解を生む公式の排出量評価の衝突を避けるには、どうすればよいのか。
CO2排出量や燃費であれ、大気汚染物質の排出量であれ、自動車の表示はこれまで常に、自動車自体によって決まるものだった。そして、その根底にある考え方は、車の性能は最終的に単一の「統合的」数値によって正しく表すことができるというものだった。この数値は、規制や税制、都市アクセス政策、消費者向け情報などさまざまな用途に用いられる。ところがわれわれは今、車の性能よりもドライバーの行動が物を言う時代に直面している。つまり、自動車よりもドライバーにラベル表示をするべきなのかもしれない。
従来の車両排出量の表示は、単一の統合的数値で事足りた。なぜなら、悪い場合(都市走行)と良い場合(高速道路走行)の違いは、CO2排出量でも燃料消費量でも3分の1程度だったからだ。つまり統合的数値は、大抵いつでも、またどのドライバーでも、現実の数値とさほど変わりがなかったのだ。
エミッションズ・アナリティクスは、37モデルのPHVを対象に独立の排出量試験プログラムを実施した。同プログラムでは、当社独自の「EQUAインデックス」の試験ルート(公式の運転サイクルよりかなり長距離で、都市部と農村部、高速道路を組み合わせたもの)を用い、電気のみを使用した時の航続距離と内燃エンジンのみを使用した時の燃費効率を別々に、それぞれ実際の道路走行条件でテストしている。
下の表は、その結果を大まかに示したもので、上段は欧州向けモデル、下段は米国向けモデルの数値だ(注1)。エンジンのみでの走行時を見ると、実走時のCO2排出量は、公式認証値の2~3倍に上る。だがこの場合、都市部でもそれ以外でも、実走時の統合的数値は各車両の性能をよく表しているようだ。

ところが、走行内容や外出間のバッテリー充電といった実際のドライバー行動を考慮すると、大きな問題が浮き彫りとなる。同じ試験データによると、バッテリーを一度も充電せずに平均的な都市部走行を行った場合、実走時のCO2排出量は走行距離1キロメートル当たり最大で平均299グラムとなる。逆に、バッテリーを常にフル充電し、短距離走行のみを行った場合、CO2排出量はほぼゼロとなる。つまり、最良の場合と最悪の場合の数値に何桁もの違いが生じるのだ。車の用途によっては、実走時のCO2排出量の方が公式の数値よりもはるかに少なくなる。
ちなみに、内燃エンジン(ICE)車の旧排ガス検査「新欧州ドライビングサイクル(NEDC)」に基づく公式数値と実走時の数値の差異は、最も開きがあった時点(つまりNEDCが新排出基準「乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTP)」に切り替わる直前)でも、わずか約50%だった。NEDCに基づく公式表示が実走時の数値からかい離した結果、大型車のエンジンの小型化や都市向け乗用車のディーゼル化が人為的に進んだ。こうした「人為的車両」は向こう10年以上にわたり路上を走り続け、CO2排出量と大気汚染排出量に悪影響を及ぼし続ける見通しだ。
米国の試験手順はWLTPと異なるが、試験結果は同様で、燃費の数値はここから最大30%のマイナス、したがってCO2排出量の数値はこれに同様の割合のプラスとされている。この手法は、ICE車の公式数値を実走時の消費者向け表示へと調整する際には有効だが、各PHV間の違いの問題はこれでは解決されない。
■次世代の「人為的車両」生み出すメーカー
最良の場合と最悪の場合の開きは、単なる統計的な問題ではない。これにより車両の平均CO2排出量目標システム全体が台無しになる恐れもある。例えば、仮にPHVが走行距離の10%のみをバッテリーで走行したとすると、フルハイブリッド車(FHEV)やマイルドハイブリッド車よりもCO2排出量が多くなる。
バッテリーでの走行距離が全体に占める比率は、「ユーティリティー・ファクター(UF)」と呼ばれる。欧州向けPHVの実走時の排ガス排出量は、走行距離1キロメートル当たり平均182グラムだが、これを「超低排出車」の基準となる走行距離1キロメートル当たり50グラムと比べると、UFが72%と仮定されていることが伺える。この基準は、メーカーが車両の平均CO2排出量に対する優遇措置「スーパークレジット」の適用を受けられるかどうかや、消費者の多くが大幅な税制優遇を受けられるかどうかを決めるものだけに重要だ。だが、国際クリーン交通委員会(ICCT)の最近の報告(注3)によると、現状ではUFは37%程度とみられている。つまり、実走時のCO2排出量は走行距離1キロメートル当たり115グラムとなり、FHEVの最良の場合を上回ることになる。
UFを37%とすると、実走時の排出量は基準となる走行距離1キロメートル当たり50グラムを130%も上回ることになる。つまり、PHVの表示は、ディーゼル車の排ガス不正の主要因となったNEDCに基づくICE車の表示以上の危険性をはらんでいるのだ。WLTPに基づくCO2排出量の許容値の低さと、現行のスーパークレジット制度を背景に、メーカーは大量のPHVモデルの発売に乗り出している。例えば、インドの自動車大手タタ・モーターズ傘下の英高級車メーカー、ジャガー・ランドローバー(JLR)は2020年末までに7モデル、独自動車大手ダイムラーは21年までに20モデル、25年までには25モデルのPHVの発売を予定する。英国でのPHVの販売台数は、20年1月の4,788台から9月には1万2,400万台に増加している。独フラウンホーファー研究機構によると、19年末時点で世界の路上には約200万台のPHVが走っていた。つまり、ディーゼル車排ガス不正に次ぐスキャンダルの種は、すでに撒かれていることになる。自動車メーカーが規制上のインセンティブに応じて、次世代の「人為的車両」を生み出しているからだ。
現行のシステムでは、実際のUFが低く、実走時の排出量と公式の数値が一致しなくても、メーカーが直接のリスクを負うことはない。代わりにリスクを負うのは、社会だ。実際、「スーパークレジット」制度は向こう3年にわたり実施されるため、メーカーにはPHVを生産するインセンティブがある。この状況は機能不全だ。
問題の深刻さを示すために、PHVの排出量が他のパワートレインの車より少なくなるために必要なバッテリー走行距離の比率を検討してみる。BEVも対象として、できるだけ公平に比較するため、製品ライフサイクルを通じた排出量を下表に示す。

これらの数値は、エミッションズ・アナリティクスが実施した欧州連合(EU)の排ガス基準ユーロ6対応車の試験と、独自の製品ライフサイクル・モデルに基づく。「電力網のクリーン化」とは、オランダのアイントホーフェン工科大学が予測するように(注5)、電力網が脱炭素化するにつれ、BEVの新車が製品寿命を通じて使用する電力のCO2排出量が減少する場合を指す。
PHVは多少の充電を行っただけで、排出量がICE車を下回るものの、マイルドハイブリッド型ディーゼル車(通常のICEディーゼル車より最大6%燃料効率が高い)も走行距離の5分の1をバッテリーで走れば、排出量は同じくらい少なくなる。前述した現行のUF37%を当てはめれば、PHVの排出量は非プラグインFHEVと同等になるが、そのためには消費者の努力と資源が追加で必要となる。とはいえ、電力網の脱炭素化を妥当な範囲内で楽観視した場合、PHVは走行距離の7割超をバッテリーで走行すれば、バッテリー式電気自動車(BEV)より排出量が少なくなる。なぜなら、BEVの方がバッテリーが大きく、その製造過程で余分なCO2が排出されるからだ。
表の最下段からは、公式の排出量基準である走行距離1キロメートル当たり50グラムの値が、消費者が走行距離のうち73%超(つまり現実の2倍)をバッテリーで走ると仮定していることがわかる。ここでもまた、WLTPと車両の平均CO2排出量目標システムの人為性が数値化されている。
これにより、PHVはあらゆる技術の良いところ取りで、他のパワートレインはすべて時代遅れになると論じることは可能だ。顧客は、スムーズでトルクが低く馬力の強い車を妥当な価格で入手できる上、航続距離を心配する必要もない。だが同時に、PHVは非プラグイン式ハイブリッド車(HV)と変わらず、存在価値がないと論じることもできる。つまり、「同時に良くもあり悪くもある」謎の車というわけだ。
■消費者行動とUFが左右するCO2排出量
一つの選択肢として、メーカーがこのUFリスクを引き受け、公式数値を実際のUFに従って再加重するシステムを通じて、車両の平均CO2排出量を算出することが考えられる。消費者向けの表示についても、車両の再検査や認証を行わずに毎年、見直すことは可能だ。そうすれば、メーカーに対し、PHVを高UFの期待できそうな消費者にのみ販売するよう促すインセンティブとなる。
EUの規則では、21年から実走時の燃料消費量の報告が義務付けられる。これにより、実際のUFのより正確な概算値が得られれば、それを用いてこうした再加重を行い、販売済みの全PHVに後から適用することも可能となる。このデータを見てから問題の有無を見極めるという解決策は、不十分だ。問題があることは分かっているし、このデータを利用すれば今すぐ解決策を実行できる。車両や製品安全に関する法規制では、メーカーは通常、予測可能な製品の誤用について責任を問われる。PHVの充電を怠ることは、予測可能な誤用と言えるかもしれない。
メーカーにリスクを負わせると同時に、消費者には、より高度な充電メカニズムを提供することも可能だ。英国では、家庭用暖房向けのリニューアブル・ヒート・インセンティブ(RHI)制度で、空気熱源ヒートポンプなどによる「再生可能」な発熱量に応じた補助金を住宅所有者に給付している。これを車両に適用し、テレマティクス・システムを通じてバッテリー走行距離に応じた補助金を給付することや、内燃エンジンによる走行時間に応じて課税することは可能だ。こうした解決策を取れば、メーカーと車の所有者がリスクを共有しながら、社会的な目標を実現することができる。
この問題が解決されない限り、PHVの市場シェアが拡大すればCO2削減策が妨げられ、PHVを禁止すれば有望性のある低炭素技術を排除することになる。結局は全車両のBEV化が必要で、できるだけ早くそれを達成するしかないと考えるなら、PHVを禁止するのが当然の選択肢だろう。一方、世界の小型商用車がバッテリー原材料の売り手寡占状態によって翻弄されるべきではなく、競合するパワートレインの市場も育成すべきと考えるなら、PHVを巡る難問を解決する必要がある。
公式の試験制度には改善の余地がある。例えば、14年に開発されたPHV向けのEQUAインデックス試験手法では、PHVの特徴を単一の数値によって表すことは不可能と認めている。したがって、どの車両についても、電気のみの航続距離と内燃エンジンのみの燃料効率を示している。EUの公式システムでは既に、認証試験により同様の詳細データが入手されているが、結局は単一の数値を算出してしまっている。エミッションズ・アナリティクスはこのほど、携帯型メーターを用いて車両の実走時の電力消費量を測定するとともに、充電ロスも計測した。全体的に、PHVではこれが最も簡潔で実態に近い表示手法となる。
とはいえ、表示を改善しても、車両の平均CO2排出量をどのように算出するかという政策上の問題は解決されない。こうした数値は、実際の消費者行動とUFに左右されるからだ。これを誤れば、CO2排出量の削減目標を大きく下回るか、魅力的な技術を放棄することなりかねない。問題解決を怠れば、重要な世界的市場を一部の戦略的原材料の所有者の手に委ねることになる。
欧州委員会自身が述べているように、これは「大きな賭け」といえる(注6)。

脚注:
1.米製品と欧州製品は、性能も技術も類似している。いずれもエンジンの排気量は平均2リットル、バッテリー容量は平均11.5キロワット時だ。電力のみでの走行時の航続距離は、両市場とも平均41キロメートル。欧州でのPHVの平均価格は約4万1,000ポンド、一般的なICE車は平均2万5,000~3万ポンドとなっている。
2.米環境保護庁(EPA)の燃料1ガロン当たり走行マイル数(MPG)換算値からの算出したCO2排出量。
3.Real-world usage of plug-in hybrid electric vehicles, International Council on Clean Transportation/Fraunhofer Institute for Systems and Innovation Research ISI, September 2020
4.製造時のCO2排出量を、スーパークレジットの排ガス排出量基準に適用。
5.Comparing the lifetime green house gas emissions of electric cars with the emissions of cars using gasoline or diesel, Eindhoven University of Technology, 2020
6.Critical Raw Material Resilience: Charting a Path towards greater Security and Sustainability, European Commission, COM(2020) 474 final, 3 September 2020
<筆者紹介>

ニック・モルデン(Nick Molden)
オックスフォード大学卒。ヘイマーケット・メディア・グループ、ユナイテッド・ビジネスなどで情報業界の経験を積んだ後、2005年にデータ分析会社オックスフォード・インディシズを創設。2011年に英エミッションズ・アナリティクスを創業し、実際の走行環境下での試験を通じて車両の排ガス量改善に努めている。2017年には、独立した走行試験を推奨する団体「アラウ・インディペンデント・ロードテスティング(AIR)」を発足した。


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